カツ弁


トランプ大統領がまた突拍子もないことを言い出しました。映画に関税をかけるというのです。アメリカにとっての外国映画に関税をかける、つまりジブリ作品や山崎監督のゴジラなど日本映画をアメリカ人が見るときにハリウッド映画より高い料金を払わなくてはいけない。単純に考えるとそういうことです。トランプの真意はどこにあるのかわかりません。ハリウッドを守るためと言っていますが、具体的にどういう形になるのかもわかりません。いずれにせよ世界中の多くの映画ファンはこの発言には呆れ返っていることでしょう。映画は商品ではありません。文化です。今回は今も生きている映画文化の原点「活弁」について語ります。

ヒレカツ弁当の略ではありません。という枕がよく使われます(笑)活動写真の弁士です。活動写真とは映画のことです。日本に明治から大正にかけて外国から入ってきた映画が活動写真と呼ばれていました。motion pictureの直訳と言われています。当時は映像だけの無声映画でした。チャップリンやロイド、キートンのアクションコメディ映画が有名です。音がありませんから派手で大袈裟なアクションシーンで映像だけでわかるストーリーが多いのです。時代劇を中心に日本の無声映画もつくられ庶民の娯楽となります。海外では映画館に楽団がいて生演奏の音楽だけをつけて上演していました。ところが日本では講談や落語といった独特の語り文化が、この活動写真にも生かされます。

日本だけの語り芸

活動写真に語りをつける人、それが活動弁士です。ストーリーを解説するだけではありません。出てくる出演者のセリフも喋ります。それも一人で複数の登場人物を演じていきます。まさに落語の話芸が生かされています。これは日本独特の文化です。活弁士によって個性が出ます。落語も同じ「芝浜」でも落語家によって全く違った雰囲気になります。人によっては物語が大胆にアレンジされ、それが評判になります。人気弁士が語る映画は大盛況、フィルム抱えて全国ツアーという弁士もいたほどでした。しかしながらこの活弁はあっという間に廃れてしまいます。そうです。程なくトーキーと言われる音声付きの映画が主流になったからです。短い命でした。技術の進歩が人間の仕事を奪う典型ですね。生成AIが急速に発達普及している今と重なります。

ところがこの活弁、実は令和の今もどっこい生きています。かくいう私”みやながたり”も、このHPで紹介している通り活弁士です。学生時代に映画サークルが自主上映会をよく開催していました。その中に「活弁士が語る無声映画の世界」みたいなイベントがありました。正確なタイトルは覚えていません。コロナ禍だった4年前、2021年に何か新しいことを始めなくてはと思い、ふと浮かんだのがこの活弁でした。しかし調べてみても中々に情報が少ない。役者や落語家が活弁のイベントに出ていたりはするのですが、プロで活動する活弁士はほんの数人です。その中に今の私の師匠である麻生八咫、子八咫という親子の活弁士が教室を開いているという情報を見つけました。メールではなぜか連絡がつかず、電話で話をしたのが最初でした。教室は東京台東区の社会教育センターで月に一回開催しているとのことでした。札幌からだというと驚かれました。当時はコロナ禍で飛行機もホテルも格安で取れましたので、コロナ規制の状況をみながら年に数回通うことになりました。

舞台は演芸の聖地浅草

以来、年に一度の発表会を目指して語りを磨いています。活弁仲間にはなんと91歳の女性もいます。背筋はまっすぐ、お腹から通る声、何より明るい方です。理想的な姿です。こういう人との出会いも人生を豊かにしてくれます。活弁が繋いでくれた縁ですね。発表会は演芸の聖地、浅草で開かれます。ここ数年は雷門の目の前にある浅草文化観光センターのホールで行っています。普通では立てない舞台です。今年はゴールデンウィークの日曜日であっという間に満席となりました。私の出し物は「血煙高田馬場」大スター、大河内傳次郎主演のアクション時代劇です。もちろん普通にはやりません。落語と同じく現代の時事風刺を交えながら、今回はスターウォーズも重ね合わせて語りました。当然、フィルムに手は加えられません。語りで映像を膨らませるのです。これが活弁の醍醐味です。そしてライブ、生でお客さんの息遣い、空気をやりとりしながら一期一会の一発勝負です。落語との一番の違いは映像が主役ということです。フィルムは自分のペースでは進みません。走り始めたら止まらない映像に自分の語りを合わせます。映像とのやりとりもまた楽しいのです。それが100年前に作られた作品であればなおのことです。時を超えて、大河内傳次郎の芝居の”間”と自分の語りをやりとりするのです。

映画は時を超えて

映画は昔も今も、見知らぬ場所へ、過去にも未来にも連れて行ってくれます。国境を超えて文化を超えて。そこにトランプ関税をかけようなんて、人類の財産である映画フィルムを切り刻む暴挙です。自由と希望を届ける映画文化の原点、活弁について語りました。これまで3作品の時代劇を麻生八咫、子八咫師匠にご指導いただいています。次の作品にも挑戦中です。さらに語りを磨いて札幌でも披露できる機会を作りたいと思っています。お楽しみに。

今回はここまで。いつも読んでいただき、ありがとうございます。また次回。


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