昔、北海道のテレビCMで「鮎である」というナレーションが流れていました。積丹の何処かの料亭だったと思います。鮎料理といえば塩焼きですが、その概念を覆す経験をしました。今回語るのはあゆに学んだことです。
35年ぶり
実に35年ぶりに大学のゼミのメンバーが集まりました。早稲田大学政治経済学部の小林茂ゼミの同窓会です。場所は岐阜県長良川です。最北は私札幌で、全国各地から11人が集合しました。なぜ長良川かというと、近郊に住む一人が鵜飼をみんなに見てほしいと幹事を買って出てくれたのです。私たちの代は一期上と仲が良く、何人かの先輩も参加してくれました。全員60歳直前です。会社やピザ屋を経営している人、会社勤め組はそれなりのポジションにいます。中には超有名企業の超偉い人も。そして間もなく定年。しかし学生時代の仲間として集まれば「そんなの関係ねえ!」(オッパッピーも早稲田でしたっけ)ワイワイガヤガヤと楽しみました。
鮎のフルコース
初日の夜に案内されたのが鮎のフルコースを提供してくれる店です。「うおそう」というお店です。カウンターに陣取った私たち。大将と話をしながら様々な鮎料理を堪能しました。天然の鮎にこだわったお店です。この時期に獲れるのは小ぶりですが、まだ骨の柔らかい若い鮎です。ですから丸ごといただけます。なんとお頭つきの鮎寿司も出てきました。ツミレにした鮎を酢で味を整えた背ごし、たまり醤油の特製タレが食欲をそそる赤煮丼などなど。鮎は塩焼きだけではないのですね。勉強になりました。もし岐阜に行くことがあれば一押しのお店です。
鮎の事情
そのお店の大将からも長良川と鮎のお話を色々と聞きました。自然豊かな環境が生かされているとはいえ、人間が住んでいる以上は政治的なことも含め様々な事情があるのだなあと知らされました。詳しくは語りませんが良いも悪いもなく営みというのは昔も今もそういうもの。そもそも鵜飼を観光化したのは織田信長です。これも岐阜城に行って知りました。信長は要人を豪勢なおもてなしで自分の味方につけていき、敵対するものは容赦無く焼き討ちという極端な飴と鞭の政治家です。そのおもてなしの一つとして地場の漁だった鵜匠の鮎漁を観光化したというのです。
川遊び
翌日の朝、長良川での舟遊びに繰り出しました。地元の漁師さんが船頭となって案内してくれます。聞くと昨夜いただいた鮎は、この漁師さんが獲ったものでした。お店の大将もこの漁師さんは扱いが丁寧で、他とは違うと絶賛していました。ガイドも同じく優しく丁寧でした。商売は人柄ですね。商品の価値はここにあります。どんなに進化した生成AIでも、この価値は作れません。櫓をもたせてもらい船を漕ぎ、穏やかな流れの長良川を上流へと進みました。川底がはっきり見えるほどの清流です。時々ピチャという音と共に鮎が川面を跳ねます。ここの鮎は皇室に献上されます。鵜匠も宮内庁の公務だそうです。知りませんでした。
天然か養殖か
漁師さんが途中、船を止めて小さな鮎をとってきました。腹のわたを出すと濃い緑のものが出てきました。川藻です。天然の鮎は草食です。なので丸ごと食べられます。海から50k遡ってきます。余計な脂がなく筋肉質です。そんな話を聞きながら漁師さんをみると、彼もまた余分な脂肪が一切ない細マッチョです。天然のカッコよさがあります。鮎は適度な流れと良質な藻がある場所を見つけて縄張りを作るそうです。半径1mほどに一匹です。そこで縄張り争いが起こります。生存競争を勝ち抜いた逞しい鮎と負け組の鮎に別れます。負け組は流れの緩やかな場所に追いやられます。しかし、そこにやってくる別の鮎がいるのです。資源保護のために養殖した鮎が放流されます。こちらは人の与えた餌で育っています。天然に比べると脂がのっています。料理にすれば、脂ののりは好みの違いです。これも良い悪いではありません。ただ、天然鮎の身になって考えてみましょう。長い道のりを経て生存競争を勝ち抜き、縄張りを見つけたと思ったら、脂肪をつけて太ったのが上流からやってくる。中小企業の叩き上げ社員と親会社から出向してきた年下の上司みたいな構図を重ねてしまいました。いけませんね、こんな想像は(笑)。
舞妓と幇間と鵜飼
夜はいよいよメインイベントの鵜飼です。屋形船をチャーターして、特別に舞妓さんと幇間さんを呼びました。艶やかな舞を見ながら日が暮れるのを待ちます。やがて辺りは暗くなり花火の合図で鵜飼漁の始まりです。篝火が闇を照らします。鵜匠とその手元から伸びる数本の細縄、そして川に潜る鵜が影絵のように浮かび上がります。ただただ黙って1300年以上受け継がれた伝統技を堪能しました。こんな接待を信長から受ければ、そりゃあ心を掴まれます。思いがけず、一生に一度の贅沢な旅となりました。ゼミの仲間、それぞれが社会人として頑張ってきた35年のご褒美旅ですね。
今回はここまで。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。また次回をお楽しみに。