作家の井上ひさしさんの言葉です。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、ゆかいなことはあくまでゆかいに」放送作家でもあった井上ひさしさんは物事がちゃんと伝わるための伝え方として、この言葉を繰り返していたそうです。私がニュースキャスターの担当になった時、当時の報道部の上司が教えてくれた言葉でもあります。以来、私の座右の銘としています。今回はやさしく、ふかく、おもしろく語ります。
コロナ禍の間、SF小説を書いたことがありました。私がSF好きなのは、過去の投稿を読んだ方ならわかると思います。日頃からいろいろと妄想しています。フィクションを考えるのが楽しいのです。しかしサイエンスである以上、科学的なエビデンスも考える必要があります。今は実現していなくても将来的にはあるかもしれない未来を想像するのです。そうすると読む人もリアリティを感じてくれるのではないでしょうか。私自身も読者、観客として、あり得る未来を描いた作品の方が楽しめます。たとえ設定がSWのように、はるか銀河の彼方であっても、そこに描かれる人間模様がリアリティを持っていれば惹かれるのです。
そんな、妄想を膨らませながら楽しい創作をする機会がありました。寄席仲間で「コメディ・ルパン」の高座名でスタンダップコメディを披露する紀野さんが主催するイベントに参加しました。生成AIを使って未来新聞を作ろうというものです。相棒は新聞記事を書いてくれる生成AIです。2035年に生まれているかもしれない(笑)新しい仕事についての記事を、それらしく書いてもらうのです。人間が投げかけるのは短い言葉です。「こんな名前の職業があったらどんな記事になりますか?」というような程度です。出来上がった記事を見て「こういう視点を加えて」とか対話を重ねると見事なSF新聞が出来上がりました。了承を得ていますので、私が作った妄想未来新聞の記事を紹介します。
Chiba City Chronicle
All The Future
That’s Fit Print
千 葉 都 市 年 代 記
2 0 3 5 年 4 月 2 9 日
J S T 1 1 : 0 0
チバクロ
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あなたの“余った人生”に、先生を。
――2035年、仕事がなくなった日本で生まれた「ひま先生」という職業
チバシティ——「やることがないんです。今日、どうすればいいですか?」
そう訊ねたのは、52歳・元金融系SEの男性。退職後、AIエージェントが生活を完璧に最適化してくれるようになり、日常には何の不便もない。だが、“退屈という空白”が日々をじわじわと蝕み始めていた。
そんな彼のスマートウォッチが提案したのは、**「ひま先生に相談する」**という選択肢だった。
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■ AIが“仕事”を奪い、時間が“余った”世界
2030年代半ば、日本は世界に先駆けて「AI就業転換期」に突入した。医療、物流、教育、法務、会計、行政──多くの職種でAIが人間を上回り、“仕事そのもの”が減っていった。
一方、生活保障はベーシック・ライフ・スキーム(BLS)により制度化され、基本的な衣食住は問題なく賄える。飢えは消えたが、“何をすればいいか分からない日々”が訪れた。
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■ 「余暇スキル指導士」、通称“ひま先生”
この時代に登場したのが、国家資格「余暇生活指導士」。通称「ひま先生」である。
ひま先生は、依頼者の性格、記憶、生活履歴、趣味傾向、精神状態、社会接点などを分析し、「その人にとって意味のある時間の使い方」を提案・設計・指導する。
「かつて人は“何かになりたい”と努力しました。今は、“なにもしないでいいのに、どう生きるか”を学ばなければならない時代なんです」
と語るのは、認定ひま先生の一人、泉ヶ原(いずみがはら)カナミ氏。
彼女のクライアントは、元自衛官から引退クリエイター、定年直後の60代、さらには17歳の「進路難民」まで多岐にわたる。
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■ ひまの処方箋:「無意味さの設計」
泉ヶ原氏が提案するのは、「無意味さの設計」だ。
彼女は“努力しない書道”や“名前をつけない散歩”、週に一度の“無言ラジオ”など、成果や評価から離れた余暇行動をデザインすることで、依頼者が「ただ存在すること」に慣れるサポートを行う。
「“ひま”は悪ではなく、“過剰な意味”に支配された社会からの離脱です。やることがないからこそ、やらなくていいことが光り始めるんです」
実際、彼女のクライアントの満足度は高く、一部では精神医療や離職予防の観点からも評価されている。
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■ だが、格差は“ひまの質”に出る
一方で、この「ひま先生」制度は、“上位層の余暇をさらに豊かにする贅沢品”として批判される面もある。
一部の都市では、ひま先生による「個人余暇設計プラン」が数十万円に及ぶこともあり、生活にゆとりがある層とそうでない層で、“ひまの格差”が広がっているという指摘もある。
社会学者の猪越ソウイチ教授は警鐘を鳴らす。
「人は、かつて“貧困”に苦しんだ。そして今、“豊かさの意味不明”に苦しんでいる。ひま先生が果たすべきなのは、“生きる意味の民主化”なんです」
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■ 教育現場でも注目される“ひまの授業”
最近では、一部の中高一貫校で「ひま教育」が導入され、“生産性ゼロの時間を楽しむ”ための指導が行われ始めた。
生徒たちは、「1時間でできるだけ何もしない」「無意味なことを真面目にやる」などのワークを通じて、**“暇を怖がらない感性”**を養っている。
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■ 余った人生を、取り戻すために
「ひま先生」は、2035年というこの時代の象徴なのかもしれない。
かつて“働かざる者食うべからず”と教えられた日本社会において、“働かなくても、なお生きる”ための心の技術者。それが「ひま先生」なのだ。
あなたの今日をどう使うか。
もし答えに詰まったら、ひま先生に相談してみるのも悪くない。
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(執筆:コウメイ・スガヌマ)
Chiba City Chronicle 記者
どうでしかたか?私が考えたのは「ひま先生」という職業名と「たぶん10年後はいろんな職業がなくなって暇な人が増えるだろうから、暇のつぶし方を教えてくれる先生が必要な時代になると思う」という何となくの設定だけです。すごくないですか?設定を思いついた時にはまだ私の頭の中の妄想は言葉になっていませんでした。しかし生成AIに問いかけた数十秒後には、私の妄想を言語化して見事にまとめてくれたのです。思いや思考を言語化するのを手伝ってくれるのです。出来上がった記事を何度となく読み返しています。読むたびに新たな考えや視点が浮き出てきます。つまり、ここにもまた様々な人の考えや思いが奥に広がっているのでしょう。それをAIがやさしく、ふかく、おもしろく、まじめに、ゆかいに語ってくれるのです。
AIを使うことは、今もなお賛否を含めた議論があります。私はまだ使い初めて間もない初心者です。ただこう感じています。AIをつかった創作活動は機械とではなく、人類との共創なのではないでしょうか。そして、そこに参加する人間がどんな思考と思想と妄想をもつかに依るのだと。
今回はここまでです。最後まで読んでいただきありがとうございました。また次回をお楽しみに。