1967年生まれの私の年代にとって宇宙やロケットはSFではなく現実のものです。かすかな記憶しかありませんが、前回の大阪万博ではアポロが持ち帰った「月の石」が展示の目玉でした。父親に肩車されて長い列に並んでいた光景が残っています。世界中が人類の月面着陸に沸いていた時代です。そして私が小学生になる頃にスペースシャトル計画がスタートしました。長期滞在できる宇宙ステーションを各国が協力してつくるミッションです。飛行機が宇宙に行って、そのまま地球に戻ってくるという夢を現実のものにするアメリカの力に魅了されました。打ち上げの生中継を見るために早起きしました。テレビをつけて固唾を飲んで見入っていました。そこで目にしたのがチャレンジャーの爆発事故でした。
1986年1月の出来事です。ふりかえると予備校生でした。受験本番を目前にしていた頃だったのですね。なぜかこれだけは見逃してはいけないという勘が働いていたように思います。あの日から40年近く経って、この地に来ることができました。子供の頃からずっと憧れてきた場所です。ケネディ宇宙センターです。ここで旅の心得その三です。
「出費はメリハリをつけよ」
私は旅をする時、できるだけ安く済ませるものと奮発するものを分けます。分ける基準はそこでしか得られない経験かどうかです。エアーとホテルは一定の質は確保しますが出来るだけ安いものを探します。移動は手段と割り切ります。宿泊も寝るだけの場所です。一日中ホテルで過ごすリゾートで、滞在そのものが旅の目的である場合は別です。今回の旅は一番の目的だったケネディ宇宙センターのツアーに奮発しました。入場料だけでもビジターコンプレックスと呼ばれる展示スペースを見ることができます。しかし追加料金を払うと様々なオプショナルツアーに参加できます。NASA職員の案内で発射台近くまで行けるバスツアーと、引退した宇宙飛行士とランチをしながら質疑応答ができるイベントに申し込みました。それなりの料金でしたが大満足です。まさに今ここにしかない経験ができました。
「3日前、ブルーオリジンのロケットがここから打ち上がりました。アポロが、スペースシャトルが宇宙へと旅立った場所です」
ケネディ宇宙センター39番発射台です。案内してくれたツアーガイドは最新の情報を交えながら、その歴史と今と未来を語ってくれました。「39年前にチャレンジャーが打ち上げられたのもここです」言葉のトーンを少し落として彼は言いました。敷地内のポールに掲げられた星条旗は半旗になっていました。事故のあった1月28日の前一週間ほどはあの日を忘れないためにそうしているのだそうです。今回の旅はこの時期に合わせたわけではありません。現地に来てからそうだったと気づきました。
近くにあるスペースXの施設には次に打ち上げられるファルコン9が横たわっていました。今NASAを中心にアルテミス計画が進んでいます。再び人類を月に送り込む計画です。さらに月を拠点にして火星を目指すという壮大なものです。センターの展示スペースにはケネディの有名な演説「We choose to go to the Moon」が象徴的に掲げられています。マーキュリー、アポロ、そしてスペースシャトルの実物を見て本物のストーリーを宇宙飛行士とのランチで聴きました。日本人宇宙飛行士の土井さんと共にSTS -123ミッションに参加したフォアマンさんです。日本の実験棟「きぼう」をシャトルで宇宙ステーションに運んだクルーです。
「私は宇宙飛行士の試験に7回落ちたんだ。それでも諦めず8回目で夢を手にした」
決して諦めない強い気持ちを持つことが大事だ。そして支えてくれる家族とチームの仲間を大切にすることだ。シンプルな言葉でフォアマンさんは語りました。夢を実現する、目標を達成するためには当たり前のことをやり遂げるだけなのです。しかし、やり「遂げる」かどうかが決定的な違いなのです。そのことを圧倒的な説得力で伝えてくれました。ランチには家族連れが多く参加していました。子供たちは目を輝かせていました。子供にとって、この時間が人生のターニングポイントになるかもしれません。いや大人にとってもです。
本物に触れるためにはコストが必要です。しかしコスト以上のリターンを得ることができます。「かけがえのない経験」というリターンです。CMでも流れていた「プライスレス」です。経験への投資が私の旅のお金の使い方です。
今回はここまで。読んでいただきありがとうございました。また次回を楽しみにしてください。