背の高い男性、普通の女性、子供。3人が壁の前に立っています。壁の向こうは野球場です。壁は背の高い男性だけが覗ける高さです。みんなが野球を見るためにはどうすればいいでしょうか。カナダのオタワ市が提言している「平等とは」というイラストです。あなたならこの3人が“平等“に野球を楽しむためにどうしますか。
デフ
今年11月に東京でデフリンピックが開催されます「デフ」は英語で耳が聞こえないという意味です。聴覚障害者のオリンピックです。日本では初めての開催となり、大会をきっかけに平等な社会をつくっていこうという趣旨です。オリンピック憲章は「スポーツを通した平和」をうたっていますが、デフリンピック憲章は「スポーツを通した平等」をうたっています。私が担当するニュース番組で北海道から日本代表に選ばれた選手を2人紹介しました。バスケットボールと卓球の選手です。映像で見る限り、何も説明しなければ聴覚障害を持っていることは分かりません。優れたアスリートです。ただスポーツにおいて音は重要な要素です。プレイの言葉での指示はもちろん、ボールを蹴る音、背後から近づく足音や気配、音で掴むリズムなどです。それでも二人は健常者に混じって練習をしています。
デフリンピックでは補聴器を使えません。耳が聞こえないという平等の条件で競技が行われます。音のない世界でのスポーツは、私たちにとっては想像しずらいものです。ただ「見るスポーツ」としては世界トップレベルの競技を楽しめる機会です。オリンピック、パラリンピック、ワールドカップと同じです。肉体的なハンディが少ないのがデフスポーツとも言えます。実際、通常の国際大会に出場し優勝したアスリートがいました。スキージャンプの高橋竜二さんです。1998年長野五輪の最終代表選考会となったSTVカップ国際ジャンプ大会。並いる強豪を抑え見事優勝しました。私はラジオの実況中継担当でした。当然彼が耳の聞こえないジャンパーということを伝えていました。しかし会場に集まった人たちは、ほとんどそのことを知りません。ヒーローインタビューで紹介されて大観衆が感動に包まれました。インタビュアーの計らいで、お客さん達は拍手ではなく手を振っておめでとうを伝えました。高橋さんは長野五輪のテストジャンパーに選ばれ、あの団体金メダルの影の立役者となりました。
壁を扉に
さて「平等」の話を語りましょう。オタワ市のイラストはこんな風に描かれていました。3枚の絵に分かれています。1枚目は3人に平等に同じ高さの踏み台が与えられています。これで女性は壁の上から野球を見ることができるようになりました。しかし子供はこの高さでは足りません。男性は逆に高くなりすぎて不安定です。2枚目です。男性はそのまま、女性には1個、子供には2個の踏み台が与えられました。これで3人とも壁の上から野球を見ることができました。めでたし、めでたし。とはなりません。これでは都度その人に合わせた踏み台を用意しなくてはいけません。ではどうすればいいのか。3枚目です。壁を取り除き、金網のフェンスを立てました。3人とも踏み台を使うことなく、かつ安全に野球を見ることができました。
もちろん、これが全ての答えにはなりません。ただ平等とはなんなのかを考える大きなヒントです。今、世界は分断や格差が広がっています。デフリンピックを通して壁を扉に変える方法を考えてみませんか。
今回はここまでです。最後まで読んでいただきありがとうございました。また次回をお楽しみに。