迷いヤギ

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東京に行った時に、時間があったので散髪屋さんを探して髪を切りました。こだわりがないのです。特定の店とか美容師の人とかにお気に入りがないのです。伸びた分をさっぱりとして貰えば十分で、髪型も標準的なものでいいのです。時間をかけたくもありません。そもそもこだわるほどの髪の量がありません(笑)。なので早い、安い、そこそこの技術でいいのです。下町の住宅街にあった理髪店でのちょっとした話を語ります。

浅草から歩いて15分ほどの住宅街にある理髪店です。グーグルで見つけました。便利ですよね。今や外国人観光客のほとんどがお店を探すときに使っています。なので、意外な店が外国人で賑わっています。ススキノで30年以上やっている焼き鳥屋があります。カウンターだけの小さな店で、地味な雑居ビルの2階に入っています。常連客しかいなかった店ですが、最近は外国の客が一見さんで入ってくるそうです。聞けばグーグルで星がついていたからというのです。私と店主の仲なので、あえて言いますがお世辞にもキレイな店ではありません。焼き鳥も普通です。店主の人柄と良いお客さんでもっているような店です。そんな店が外国人で繁盛しているなんて、不思議な時代です。

そんな感じで私もグーグルを参考に星のついている理髪店を探して出てきたのが今回の店です。土曜日の昼すぎです。地元のお客さんらしき人が並んでいました。ここも散髪台は4席の小さな店でした。店員は3人です。とあるチェーン店から独立して開業したとホームページに書いてました。駅前などに展開しているカットのみのチェーン店です。店は上手に効率的な作りをしていました。洗髪がないので水周りは極力省いています。待合の椅子は5席ですが全て埋まっていました。年配の方から小学生まで、このあたりにどんな人が住んでいるのかがよくわかる客層です。私が待っているときに髪を切っていたのが小学生の男の子です。ボサボサの髪で椅子に座りました。「スポーツ刈りでお願いします」と言ってまっすぐ前を見ていました。女性の店員がお話しながら手際よくバリカンを入れていきます。サッカーをしているようです。学校生活の話しをしながらあっという間に気合の入ったサッカー少年に変身です。お代は千円です。昭和の下町にタイムスリップです。

私の番が回ってきました。店員さんもちゃんとお客を見ているのでしょう。私には余計な話をしません。淡々と注文に応じてハサミを入れていきます。店内にはテレビの音が聞こえています。待合席に向けて小さなテレビが置いてありました。ニュースの時間になったようです。男性アナウンサーの声が店内に響きます。「迷いヤギが見つかりました」一瞬、店員の手が止まりました。私も思わず「え?」と小さく声をあげてしまいました。東京近郊のある町でどこからか逃げてきたヤギが見つかったというのです。首輪が付いているので飼われていたヤギです。ですから「迷いヤギ」と表現したのでしょう。北海道で街中に出没しているクマやシカには使わない表現です。「平和なニュースですね。もっと他に大事なことがあるだろうに」店員は笑いながらそう言って、ハサミを動かし始めました。

あのヤギもグーグルが使えたら迷うこともなかったろうに。そんな事は思いませんでしたが、迷っていると勝手に表現しているのは人間の都合でしょう。本当は家畜生活が嫌になって逃げ出してきたのかもしれません。どちらにしろあのヤギは自分の意志で行動していたのです。人に見つかり、迷いヤギと名付けられるまでの時間は。逃げ出すのも、迷うのも自分の意志であれば悪くはない。それもできずにいる人間の方がよっぽど不自由かもしれません。むしろ迷っているのは人の方でしょう。

今回はここまで。最後まで読んでいただきありがとうございます。また次回をお楽しみに。


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