行きつけの飲み屋さんが店を閉じました。創業79年のおでん屋さんです。ススキノで一番古い店の一つです。私が通い始めたのはまだ20代の頃でした。30年近くお世話になってきました。ススキノの歴史や紡がれてきた人の繋がり、いいも悪いも光も闇も含めての人間模様を教えてくれた店です。酒場は社会の学校だと思います。
「時間と人の交差点」
歴史あるお店は長い時間軸とその時代ごとの人の交流が財産になっています。その時々と集まった人々によって一期一会の交差点が毎夜生まれているのです。そんな店も減っているか、求められなくなっているのか。ガード下の立ち飲み屋であったりビルの地下にある小さな居酒屋も再開発に合わせて居場所を失っているような気がします。そこに新しい交差点が生まれるなら良いのですが、札幌の中心部に建ち始めているビルにはお馴染みのチェーン店が看板を掲げています。
マーケットの世界ではモノ消費からコト消費に人々のニーズが移っていると言われます。そもそも「消費」という言葉が好きではありません。人が何かにお金を使うのは消費ではなく「投資」と捉えた方がいいと思うのです。食べ物を買うのも体への投資です。元気と健康のための投資です。嗜好品だって心を豊かにするための投資。消えていくのではなくリターンがあります。だから投資です。その対象が「経験」に重きを置くようになったのが「コト投資」です。そして次に来るのは「ヒト投資」です。誰かに出会うための投資です。その手軽で堅実な投資先の一つが酒場だと思うのです。
3月で店を閉めたおでん屋さんからは多くのリターンをもらいました。平均すると月に2、3回のペースで通い続けました。店主のご夫婦からは本当にいろんな話を聞き、お店以外でも一緒に食事をしたり遊んだりしました。そしてたくさんのお客さんと知り合うことができました。いいお店はいい店主といいお客でつくるのだと学びました。ここで投資したサラリーマンの小遣いですが、何十倍何百倍にもなって無形の財産になりました。
そんな私のススキノの止まり木がなくなりました。しばらくはその辺りの地べたに休みましょうか。あるいはススキノ酒場学校からの卒業の機会かもしれません。これからはお店で出会った人たちと同窓会として飲むことになるでしょう。それほどに大きな存在でした。「河庄」さん、ありがとうございました。
今回はここまでです。最後まで読んでいただきありがとうございます。また次回をお楽しみに。(週一ペースで書いてます)